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最高裁判所第二小法廷 昭和44年(あ)858号 判決 1969年12月05日

主文

原判決および第一審判決を破棄する。

本件を久慈簡易裁判所に差し戻す。

理由

検察官の上告趣意第一点は、判例違反をいうが、所論引用の判例は本件と事案を異にし適切でなく、同第二点は、単なる法令違反の主張であつて、いずれも適法な上告理由にあたらない。

しかし、所論にかんがみ職権により調査するに、原判決およびその維持する第一審判決には、以下に述べる法令の違反があり、これを破棄しなければ著しく正義に反するものと認める。

原判決の確定したところによれば、本件は、昭和二三年一月二〇日生れの被告人が、その年令一九年三ケ月であつた同四二年五月六日、自動二輪車を運転した際、業務上必要な注意義務を怠つて幼児に接触転倒させ、全治二ケ月の傷害を負わせた事案であるところ、被告人からの届出により、所轄の久慈警察署種市巡査部長派出所(のちに同署幹部警察官派出所と改称)の警察官が、翌朝実況見分を行なうことにより捜査が開始され、関係人等の供述調書も作成されて、同年七月中旬頃本署に一件書類が進達された。しかし、実況見分調書等に不備があり、右書類は二回にわたり派出所に返戻され、右派出所から、同年一一月下旬ごろ本署に三たび進達され、同署において、同年一二月一五日事件を一件書類とともに盛岡地方検察庁に郵送して送致したが、同検察庁においては年末事務処理のため、事件は翌四三年一月五日になつてようやく受理され、同月一六日ごろ担当検察官のもとに配点されたが、前記実況見分調書に不備が認められたこともあつて、被告人が成年に達した同月二〇日を経過したのち、同地検二戸支部へ、さらに久慈区検察庁に移送され、あらためて実況見分が行なわれた後同年三月一五日久慈簡易裁判所に対し略式命令の請求がなされたというのである。

ところで、少年の被疑事件について、家庭裁判所に送致するためには、司法警察員または検察官において、犯罪の嫌疑があると認め得る程度に証拠を収集し、捜査を遂げる必要があり、このことは少年法四一条、四二条の明定するところである。したがつて、捜査機構、捜査官の捜査能力、事件の輻輳の程度、被疑事件の難易等の事情に左右されるとはいえ、その捜査にそれ相応の日時を要することはいうまでもなく、捜査に長期の日時を要したため、家庭裁判所に送致して審判を受ける機会が失われたとしても、それのみをもつて少年法の趣旨に反し、捜査手続を違法であると速断することのできないことも、また、多言を要しない。

もつとも、捜査官において、家庭裁判所の審判の機会を失わせる意図をもつてことさら捜査を遅らせ、あるいは特段の事情もなくいたずらに事件の処理を放置しそのため手続を設けた制度の趣旨が失われる程度に著しく捜査の遅延をみる等、極めて重大な職務違反が認められる場合においては、捜査官の措置は、制度を設けた趣旨に反するものとして、違法となることがあると解すべきである。

しかし、本件において、原判決の確定した事実関係のもとにおいては、捜査に従事した警察官には、いまだ、前示のごとき極めて重大な職務違反があるとは認めがたいから、その捜査手続は、これを違法とすることはできない。これに反する原判示は、法令の解釈適用を誤まつたものである。

つぎに、原判決は、捜査手続の違法が重大であり、かつ、これを前提としてはじめて公訴提起が可能である場合には、捜査手続の違法は、公訴の提起を無効ならしめるというけれども、本件において、捜査手続が必ずしも違法とはいえないことは、すでに説示したところであるのみならず、仮りに捜査手続に違法があるとしても、それが必ずしも公訴提起の効力を当然に失わせるものでないことは、検察官の極めて広範な裁量にかかる公訴提起の性質にかんがみ明らかであつて、この点に関する原判示は、いまだ首肯するに足りるものではないといわなければならない。

よつて、刑訴法四一一条一号により、原判決およびその維持する第一審判決を破棄し、さらに審理を尽くさせるため、同法四一三条本文により、これを久慈簡易裁判所に差し戻すべきものとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。(草鹿浅之介 城戸芳彦 色川幸太郎 村上朝一)

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